質屋のスタッフブログ
2021年06月24日
鴫原質店の弟さんです。
今回は試金石と硝酸と比重計を使って金色物体の金性を判別していきます。同様の案件を今まで何度も取り上げてますが、質屋の日常で実際にあった事を書いているので多少の重複はお許しください。また失敗談ではありませんが、買取現場における諦めのような部分も最後にありますので、ご興味あればご覧下さい。尚、ここでやっていることは買取成立後に同じことを写真を撮りながら再現しており、普通にやると数分で終わる事です。
今月の中旬、金のプレートの買取査定がありました。全て同じお客様が一度にお持ちになられたもので、一般家庭の方が持っているような品物ではありません。これらは歯医者さんや歯科技工士の方々が保有している事が多い板材ですが、手書きで「K14」とマジックで書かれた物体がちょっと不思議。変な色してるし怪しい形してるし均一でないし、一度融解して何かの型に入れたのかな。この子が話の中心となるので、私が勝手に「手書きマジック君」と命名します。
やる事はいつもと全く変わりませんので淡々と進めます。買取査定なので取り合えず金性を調べないと値段のつけようもありません。刻印がないこの金色物体の正体を判明する為に、先ずは試金石に擦りつけます。金性の高い順番に並べたかったので、最後の金属を一番左に変更しました。そして痕跡を見てみます。慣れてくるとこの時点で左の2個は金性が高いものである事、そして右の2個は金性が低いもの、そしてもしかしたら金が入っていない可能性もある事が分かります。特に一番右側の「手書きマジック君」の痕跡はその名前以上に怪しさを感じます。
そして擦りつけた痕跡に硝酸を浸します。金以外の不純物は硝酸で溶けていく為、金性の低い物体の痕跡はその姿を大きく変化させます。ちなみに金が入っていない場合、その姿は完全に消滅していきます。
画像の明度の問題で分かりずらいので加工した画像で比較してみましょう。一番右の「手書きマジック君」の痕跡が大きく形を変えた事が分かります。K14と書かれていた事に嘘があるのか、又は混ぜた金属の割合(混ざり具合)が一定でなく、擦った部分の金性が低いのか、正直この時点で判別する事はできません。でも取り合えず、これら4つの物体に元素記号AUである金が比率は違えど入っている事が分かりました。金以外の混ぜ物にもよりますが、その痕跡の形状が溶けていく段階で、白っぽい煙が出てくることがあります。猛毒なので絶対に吸い込んではいけません。実際に「手書きマジック君」の痕跡からは温泉が湧き出る如く白い煙が立ち込めてました。
次に比重を計ります。試金石の一番左端の痕跡をつけた物体です。大気中での重さが10.0グラム。水中での重さが9.44グラム。
比重=(10.0)÷(10.0―9.44)=17.85
これにより22金(91.6%が金)と判断します。
計りに載せてメモ取って、水に沈めてメモ取って、電卓叩いてすぐ終わり~。100分の1の重さ(0.01グラム)が変化するだけでエラー表示になるので、比重計の機能を使うより計算した方が断然早いです。0.01グラムなんて息を吹きかけただけで変化しますからね。そしてその要領で次は長い金色物体を調べます。大気中での重さが40.12グラム。水中での重さが37.55グラム。
比重=(40.12)÷(40.12―37.55)=15.61
多少の誤差はありますが18金(75%が金)と判断します。
さてここからが少し注意が必要です。試金石と硝酸の段階で金性が低いと想定している物体の比重検査です。14金を下回る場合、金の入っている割合が58.3%以下となるので、比重は混ぜ物にも影響されて安定しなくなりがちです。実際に9金や10金そして12金は比重検査での判別は非常に難しく、私ごときには可能なのかさえ分かりません。更には「手書きマジック君」に関しては存在そのものが怪しいので特に注意が必要です。
先ずは痕跡3番目のプレートから。製品化されているものなので少し安心できます。大気中での重さが15.00グラム。水中での重さが13.82グラム。
比重=(15.00)÷(15.00―13.82)=12.71
製品である事を考えると10金(41.7%が金)のプレートなのでしょう。なんか分からんけど刻印されている文字も十金と見える気もします(←何の刻印か不明)。比重的には14金を下回っており、確信を持てるところは10金となります。
そして今回の目玉「手書きマジック君」の登場です。大気中での重さが56.57グラム。水中での重さが52.12グラム。
比重=(56.57)÷(56.57―52.12)=12.71
偶然にも先程のプレートの比重と100%一致。その存在がとっても怪しい「手書きマジック君」でしたが、100分の1単位まで一比重が致するということは、とんでもなく凄い精度で精錬された金属だと分かります。はっきり言って偶然な訳ありません。という事は「手書きマジック君」は10金なのでしょう。
金性が低いものは特にそうですが、比重は上下にブレる事が多いです。金の他に銅や銀を合成して「41.7%」が金である事が10金の意味。つまり半分以上は金以外の何かの金属が入っており、その比重が100分の1の単位まで同じになるという事は、同じ金属配合がなされている可能性が非常に高いと思われます。そういう意味で色々想像すると、10金のプレートを溶かして型に入れたものが「手書きマジック君」なのかも。もしくはこの割合の金属が必要で、ちゃんとしたレシピがあるとかかな?。なんだかK14というマジックの文字に少し悪意を感じてしまいます。
結果的には上記の判断の通りで査定額をお伝えしました。例え手書きであっても、K14と書かれている金属(「手書きマジック君」)が10金という説明に満足する訳もなく、間を取って12金扱いで買取させて頂くことでご承知頂きました。比重は嘘をつきませんが、何よりその他で重量があるので、この「手書きマジック君」で少し損しても全部売ってもらった方がいいという判断があります。
そしてこの金属たちを溶かした結果、「手書きマジック君」が10金だと判明します。10金と判断したプレートと同じ比重なんだからま~そうでしょうね。169,500円でお客様から購入したものを157,800円で融解してるのでマイナス11,700円なり~~~。でも他もあるのでもちろんトータルではプラスです。失敗というより想定の範囲内かな。っていうか「手書きマジック君」はどうしてあんな形や色をしていて、マジックで「K14」って書かれていたんだろう。損した事などはどうでもよく、それだけが気にかかります。
今回のように一つで損をしても、その他の全てを買った方がお店にとって得な場合があります。もし「手書きマジック君」でもっとケチったら(←一応14金を12金にしてるので)お帰りになっていたかも。ましてや当店で(しょうがなく)12金だったら買えると判断したこの物体を、他の店では14金と判断するかもしれません。だって意味は分からないけど「K14」って書いてあるし!。売却されるお客さまにとっては、値段が高い方がよりいい店で、その品物の本質などは無関係なものです。
最後に、当店では意図的に融解と再形成をおこなった【ゆだまり】と呼ばれる金属の塊は、基本的に売買しない事にしてます。元の形を熱で変形させ、ただの金塊にした時点で、その元の形に何かしらの悪意や犯罪が絡んでいる事がとても多いからです。今回のこの「手書きマジック君」も考え方によれば【ゆだまり】の部類に入る可能性もありますが、とても精度の高い精錬をしている事が想定される上、他の金属プレートと同時持込だったので取り扱いました。もし仮に「手書きマジック君」だけの持ち込みだったら査定もしないと思います。だって変な色してるし怪しい形してるし均一でないし、何よりもマジックでK14って書いてあるし、その姿だけを見ればどう考えても普通でないと判断するのが妥当な事。いったいこの「手書きマジック君」を造った目的は何なのだろう?。知っていたら誰か教えて下さい。
本日は以上でございます。
2021年06月18日
鴫原質店の弟さんです。
今回は少し前の事ですが店頭で買取した腕時計について。こちらは1987年に日本国内で限定発売されたパテックフィリップ カラトラバ。グレーとシルバー、そしてこのアイボリー文字盤のラインナップで各種50本、合計150本の限定販売品という非常に希少価値の高い品物のようです。素材はステンレスで型番は「3923A」。一般的に発売されていたカラトラバ「3923」は金無垢なので、限定品という付加価値はあるものの、ステンレス製であるこの品物がお客様にどのように評価されるのかが興味深いところ。ケース直径が31.5ミリの小ぶりの時計で、腕時計の巨大化が進む今の現状ではレディースサイズに感じてしまいますがメンズ用です。
売って頂いたときの状況はというと、査定金額を提示して一度はお帰りになられましたが一週間後に再度来店されて、前回の値段なら売りたいという話で商談がまとまりました。希少な品物である事は間違いないので、多くの店舗で見積もりを取られたのでしょう。他店とどのくらいの差があったのかは知りませんが、お譲り頂いて良かったです。
ところが買取させて頂いた後に【時計が壊れている!】事に気が付きます。事前の見積の時は何の問題もなかったらしい(←他の人がやったから知らない!)のですが調子が悪い。確認しない方も悪いが、一体どこの誰が壊したのか(涙)。それに壊れてるものを同じ値段で買っちゃダメじゃん(哀)。
そしてここからようやく本題に。上記のような経緯があり、こちらのお品物は正規代理店へ入院(メーカーオーバーホール)となりました。入院費は消費税込みで228,800円なり~~~~~~!。世界が誇る時計メーカー様の正規メンテナンスなので請求される金額のみが妥当な金額。保証書が無い品物ですが、メーカーでの正規メンテナンスという安心感により莫大な付加価値が加わり、その商品価値は一段と高まったことでしょう!‥‥‥‥(本当か?)。
ベルトもピッカピカの未使用品になりました。裏にパテックフィリップのロゴが刻印されたクロコダイル製!。クロコダイルのベルトは安いもので5~6千円で買える時代に、このベルトはなんと60,500円。このロゴの刻印にそれだけ付加価値があるという事ですね。
パテックフィリップって
「なんか」凄いね!。
そしてケース仕上げが47,300円!。当店は一般的なケース仕上げを通常1万2千円(税抜)でやっているので、この金額には少し驚きました。何か特殊な事があるのかなと仕上具合を見ても、特に変わったとこは無いような気が。形状を変えず薄く表面を削って、商品のベースを崩さない感じのタッチかな。私も簡単な仕上げは自分でやるので「この傷は消した方がいいかな~」とか興味深く見てしまいました。この仕上げに関しては、パテックフィリップ正規代理店がやったという事実を証明する【領収書】がとても(×3)重要です。この領収書が無ければ、「私が仕上げしたもの」か又は「当店提携工房が仕上げしたもの」か「正規店で仕上げしたもの」かなんて判断する方法があるのかどうか。
とはいえパテックフィリップの正規メンテナンスで仕上げした事実がとても重要で、それは私の感覚ではなく一般認識だと思います。だからこそ同じ仕事でも高額に設定でき、その価格設定に対して誰も疑問を感じません。それこそ値段に対して疑問を頂くような方は、パテックフィリップのお客様を続けることはできないのかも。
パテックフィリップって
「やっぱ」凄いね!。
時計修理に限らずどんな業界にも言える事ですが、同じものを販売(提供)するにも、利益をより多くとれるということはとても大切です。そしてまた、支払側が満足し納得するもの(事)であれば「高い」という感覚さえありません。本当に凄い事ですが、それこそが長年培ってきたブランド力そのものであり、他では変わることができない存在であるからできる事なのでしょう。今回はパテックフィリップの値段設定を見て色々と考えてしまいました。
どんな業界であろうと、このような独自性を持つことが重要なはず。そしてふと自分に当てはめてみると、一体何ができるかなど考え込んでしまいます。ブランドそのものに価値があり、その価値ある品物の中古品を販売している私たちが持てる独自性‥‥‥‥、そんなのあるのだろうか。ましてや質屋という事に関して言えば価格競争以外には、一般的ユーザーが望むことがあるのだろうか。安心感や昔からの付き合いとか周りからの評判とか、確かにそういうものはあるにせよ、むしろ価格競争で勝負した結果として周りの評価がある気がしてなりません。
インターネット経由の販売が主流になりつつ今、色んな事が変化しているので今一度何か見つけないといけないのかもしれませんね。なんだか思考が纏まらないし、だらだらしてきたのでこの辺で終わります。最後に、昔からよく知っている事ですが今回は改めて思い知りました。
パテックフィリップって
「ホント」凄いね!
本日は以上でございます。
2021年06月14日
鴫原質店の弟さんです。
大体いつもですが今回は更に凄くどうでもいいお話です。お店(質屋)で働いている時に実際にあった出来事ですが、質屋との関係性はありません。でも地元のご年配のお客様と会話している時の予備知識としては、もしかしたら役に立つかもしれないお話かも‥‥(?)。ご興味あれば是非ご一読下さい。
数日前、仕事中に私のベルトのがポロっと外れました。お客様から「使ってくれ」とタダで頂いたもので、長い事愛用しているベルトの革が劣化により外れただけの事でした。傷んだ部分をハサミで切ってまた使う事ができるので、すぐに調整して装着しなおします。その時の事ですが、ベルトが外れた時に私は独り言で呟いたそうです。
「ベルトふっちゃけた」
何も意識してないので覚えていませんが、周りの反応により私がそのように言ったという事が後から認識できました。
兄嫁:「ふっちゃけた」って何ですか?。
私 :「ぶっちゃけた」とか「ふっちゃけた」って言わない?
兄嫁:旦那(社長の事)さんもたまにいうけど…。
私 :壊れたときに言わない?。標準語だと思うけど‥‥。
兄嫁:違うと思います。
私 :M君~、「ふっちゃけった」って言うよね?。
M君:「言いません」。
私 :そうなんだ‥‥。標準語だと思ってた。
話のやり取りなので若干のズレはあると思いますが、大体こんな会話があったように思います。
私の祖母は宮城県の海沿いにある島育ち。当然ですが訛りが酷く、子供の頃は何をしゃべっているのか分からない事もありました。子供の頃から父や母が使う言葉などは自然と覚えていくもので、それは普通の言葉という認識で覚えていきます。親とは違う言葉を話す祖母達が訛っているという、恐ろしく身勝手な勘違いに気が付いたのは大学生の頃です。「仙台弁」とか「宮城弁」というらしいですが、私自信も他県の人が聞いたときに、意味不明な言葉を日常用語として使っていた事を知りました。
何となく有名どころの単語を紹介します。
【ジャス】
小学校で着ていた体育服(一般的にはジャージ)。学校から配られる準備品を周知するプリントで、しっかりとジャスと書いてありました。中学校でも先生方はジャスと呼んでおり、やはり準備物のプリントにはジャスと書かれてました。ただ高校生活から、体育の先生が「ジャージ」と言うので私の言葉もジャージに変化します。自分の子供達に「ジャスって知ってる?」と聞いたら、「何それ」と反応します。もう死語のようです。どっから出てきた単語なのか今ではとても不思議ですが、30年前の仙台市内の小中学校では普通に使われていた言葉です。
【ジョイント】
今は亡き父がいつもホチキスをジョイントと言ってました。小学校ではホチキスと呼んでいたので、方言だという事は幼少期から気付きました。これはきっぱり聞かなくなった単語です。きっと死語なのかも。
【いきなり】
「とても」という意味で今でも使います。例えば、「いきなりうまい」とか意識もせず言います。意味は「とてもおいしい!」を少しびっくりして言う時とかに使ってしまう。いきなりは「とっても、とか凄く」という意味。これが方言と気が付いたのは大学生活の時です。繰り返しますが、私は今でも普通に言いますし、周りの友達も言っている気がします。
【とうきび】
うちではトウモロコシの事を昔から「とうきび」と言います。因みに福島県出身の私の奥様は「とうみぎ」と言います。地域によって全然呼び方が違うようですね。
そしてここからは、すぐに思いつく祖母が話していた単語を意味と共に羅列してみます。今では聞かない言葉ですが、ご年配のお客様がたまに使う事もあるので理解できないと接客ができないかも。
【おしょしい(おしょすぃい)】
恥ずかしい。「おしょしぃ~な~」とか。
【がおる】
具合が悪いとか疲れたとかいう意味。「がおった~」とか。
【ごっしゃく】
怒る。「ごっしゃくぞ!」とか。
【けさい】
「〇〇して」との依頼の最後つく。「ごみ捨ててけさい」とか。
【いずい】
なんか変だ的な意味。「目~いずいなぁ~」とか。
【おだつ】
調子に乗る。「おだつなよぉ~」と叱られたり。(※調子に乗るなよ!という意味)
【めぐせ】
みっともない。「その服、めぐせぇ~ぞ」とか。
【モダン】
洋服売る時など商品を褒める意味で「もだんだ~」と言ってた。英語の「MODERM」を「もだん」と読んだと推測できる。現代的?今時?などとにかく目新しい的な意味だと思われる。正直今でもあまり分からない。
【あがらい】
お客様を出迎える時、又はお家に入りなさい的な意味。
【ひまだれ】
時間を潰すという意味。「ひまだれして、ごめん」とか。(あなたの時間を無駄にしてごめんねという意味)
【んで】
「さよなら+またね~」という意味。「んでね~」とか言う。私は今でも使う!。
発音方法が文面だと伝わらないのが残念ですが、実は私も上手く発音できません。それでも幼少期の記憶で、祖母達ご婦人方が話していた言葉なのでよく覚えています。「ひまだれ」に関しては今でも結構聞く言葉で、来店したお客様が何も購入されない場合に「ひまだれして、ごめんね」など言われるときも普通にあります。
こんな感じで私も時々変な言葉を使います。何も意識しないで話すときに多いかも。日常のなんてことの無い出来事から、ほんの少しですが仙台の方言を紹介してみました。尚「いきなり」については、岩手県南三陸出身の友人が「いぎなし」という類義語を使うので、元々は海の言葉かもしれませんね。繰り返しますが、私の回りでは結構聞く言葉なので、今でも幅広い世代に使われているのではないかと思います(←若い人は使わないと思われます)。
「ふっちゃけた」という方言の話を書こうと思って始めましたが、気の向くままに書いていたら気持ち悪い位に長く続いてしまいました。いくらでも書き続ける事が出来そうなのでもう終わりにします。本当にどうでもいい話ですみませんでした。
本日は以上でございます。