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試金石と硝酸と比重計を使用して金性不明品を判別

鴫原質店の弟さんです。

今回は試金石と硝酸と比重計を使って金色物体の金性を判別していきます。同様の案件を今まで何度も取り上げてますが、質屋の日常で実際にあった事を書いているので多少の重複はお許しください。また失敗談ではありませんが、買取現場における諦めのような部分も最後にありますので、ご興味あればご覧下さい。尚、ここでやっていることは買取成立後に同じことを写真を撮りながら再現しており、普通にやると数分で終わる事です。

今月の中旬、金のプレートの買取査定がありました。4つの金色物体全て同じお客様が一度にお持ちになられたもので、一般家庭の方が持っているような品物ではありません。これらは歯医者さんや歯科技工士の方々が保有している事が多い板材ですが、手書きで「K14」とマジックで書かれた物体がちょっと不思議。変な色してるし怪しい形してるし均一でないし、一度融解して何かの型に入れたのかな。この子が話の中心となるので、私が勝手に「手書きマジック君」と命名します。

やる事はいつもと全く変わりませんので淡々と進めます。買取査定なので取り合えず金性を調べないと値段のつけようもありません。刻印がないこの金色物体の正体を判明する為に、先ずは試金石に擦りつけます。金色物体を試金石に擦りつける金性の高い順番に並べたかったので、最後の金属を一番左に変更しました。そして痕跡を見てみます。4つの痕跡慣れてくるとこの時点で左の2個は金性が高いものである事、そして右の2個は金性が低いもの、そしてもしかしたら金が入っていない可能性もある事が分かります。特に一番右側の「手書きマジック君」の痕跡はその名前以上に怪しさを感じます。

そして擦りつけた痕跡に硝酸を浸します。硝酸に浸した痕跡金以外の不純物は硝酸で溶けていく為、金性の低い物体の痕跡はその姿を大きく変化させます。ちなみに金が入っていない場合、その姿は完全に消滅していきます。

画像の明度の問題で分かりずらいので加工した画像で比較してみましょう。痕跡を比較一番右の「手書きマジック君」の痕跡が大きく形を変えた事が分かります。K14と書かれていた事に嘘があるのか、又は混ぜた金属の割合(混ざり具合)が一定でなく、擦った部分の金性が低いのか、正直この時点で判別する事はできません。でも取り合えず、これら4つの物体に元素記号AUである金が比率は違えど入っている事が分かりました。金以外の混ぜ物にもよりますが、その痕跡の形状が溶けていく段階で、白っぽい煙が出てくることがあります。猛毒なので絶対に吸い込んではいけません。実際に「手書きマジック君」の痕跡からは温泉が湧き出る如く白い煙が立ち込めてました。

次に比重を計ります。試金石の一番左端の痕跡をつけた物体です。一番左の金属の比重検査大気中での重さが10.0グラム。水中での重さが9.44グラム。
比重=(10.0)÷(10.0―9.44)=17.85
これにより22金(91.6%が金)と判断します。

計りに載せてメモ取って、水に沈めてメモ取って、電卓叩いてすぐ終わり~。100分の1の重さ(0.01グラム)が変化するだけでエラー表示になるので、比重計の機能を使うより計算した方が断然早いです。0.01グラムなんて息を吹きかけただけで変化しますからね。そしてその要領で次は長い金色物体を調べます。左から2番目の痕跡をつけた金属の比重検査大気中での重さが40.12グラム。水中での重さが37.55グラム。
比重=(40.12)÷(40.12―37.55)=15.61
多少の誤差はありますが18金(75%が金)と判断します。

さてここからが少し注意が必要です。金性が低いと判断している2つの物体試金石と硝酸の段階で金性が低いと想定している物体の比重検査です。14金を下回る場合、金の入っている割合が58.3%以下となるので、比重は混ぜ物にも影響されて安定しなくなりがちです。実際に9金や10金そして12金は比重検査での判別は非常に難しく、私ごときには可能なのかさえ分かりません。更には「手書きマジック君」に関しては存在そのものが怪しいので特に注意が必要です。

先ずは痕跡3番目のプレートから。製品化されているものなので少し安心できます。金性が低いと判断している四角いプレート大気中での重さが15.00グラム。水中での重さが13.82グラム。
比重=(15.00)÷(15.00―13.82)=12.71
製品である事を考えると10金(41.7%が金)のプレートなのでしょう。なんか分からんけど刻印されている文字も十金と見える気もします(←何の刻印か不明)。比重的には14金を下回っており、確信を持てるところは10金となります。

そして今回の目玉「手書きマジック君」の登場です。金性が低いと判断しているK14とマジックで書かれた物体大気中での重さが56.57グラム。水中での重さが52.12グラム。
比重=(56.57)÷(56.57―52.12)=12.71
偶然にも先程のプレートの比重と100%一致。その存在がとっても怪しい「手書きマジック君」でしたが、100分の1単位まで一比重が致するということは、とんでもなく凄い精度で精錬された金属だと分かります。はっきり言って偶然な訳ありません。という事は「手書きマジック君」は10金なのでしょう。

金性が低いものは特にそうですが、比重は上下にブレる事が多いです。金の他に銅や銀を合成して「41.7%」が金である事が10金の意味。つまり半分以上は金以外の何かの金属が入っており、その比重が100分の1の単位まで同じになるという事は、同じ金属配合がなされている可能性が非常に高いと思われます。そういう意味で色々想像すると、10金のプレートを溶かして型に入れたものが「手書きマジック君」なのかも。もしくはこの割合の金属が必要で、ちゃんとしたレシピがあるとかかな?。なんだかK14というマジックの文字に少し悪意を感じてしまいます。

結果的には上記の判断の通りで査定額をお伝えしました。例え手書きであっても、K14と書かれている金属(「手書きマジック君」)が10金という説明に満足する訳もなく、間を取って12金扱いで買取させて頂くことでご承知頂きました。比重は嘘をつきませんが、何よりその他で重量があるので、この「手書きマジック君」で少し損しても全部売ってもらった方がいいという判断があります。

そしてこの金属たちを溶かした結果、「手書きマジック君」が10金だと判明します。金性が低いと判断しているK14とマジックで書かれた物体10金と判断したプレートと同じ比重なんだからま~そうでしょうね。169,500円でお客様から購入したものを157,800円で融解してるのでマイナス11,700円なり~~~。でも他もあるのでもちろんトータルではプラスです。失敗というより想定の範囲内かな。っていうか「手書きマジック君」はどうしてあんな形や色をしていて、マジックで「K14」って書かれていたんだろう。損した事などはどうでもよく、それだけが気にかかります。

今回のように一つで損をしても、その他の全てを買った方がお店にとって得な場合があります。もし「手書きマジック君」でもっとケチったら(←一応14金を12金にしてるので)お帰りになっていたかも。ましてや当店で(しょうがなく)12金だったら買えると判断したこの物体を、他の店では14金と判断するかもしれません。だって意味は分からないけど「K14」って書いてあるし!。売却されるお客さまにとっては、値段が高い方がよりいい店で、その品物の本質などは無関係なものです。

最後に、当店では意図的に融解と再形成をおこなった【ゆだまり】と呼ばれる金属の塊は、基本的に売買しない事にしてます。元の形を熱で変形させ、ただの金塊にした時点で、その元の形に何かしらの悪意や犯罪が絡んでいる事がとても多いからです。今回のこの「手書きマジック君」も考え方によれば【ゆだまり】の部類に入る可能性もありますが、とても精度の高い精錬をしている事が想定される上、他の金属プレートと同時持込だったので取り扱いました。もし仮に「手書きマジック君」だけの持ち込みだったら査定もしないと思います。だって変な色してるし怪しい形してるし均一でないし、何よりもマジックでK14って書いてあるし、その姿だけを見ればどう考えても普通でないと判断するのが妥当な事。いったいこの「手書きマジック君」を造った目的は何なのだろう?。知っていたら誰か教えて下さい。

本日は以上でございます。

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