鴫原質店の弟さんです。
明日(8月23日)に開かれる、質屋組合の市場に出品される品物の下見をしていたところ、面白いものを見つけたのでご紹介します。いつもの事ですが、今回は特に長いです!
今回の題材はモアッサナイト!(しかもソーティング付き)
鉱物の特徴やデータなどは、そのうち当店の宝石鑑定士(社長)が説明用のホームページを制作していくと思うでの、私はちょっと違う視点から紹介したいと思います。
モアッサナイトは自然界において隕石などから稀に産出されるレアな鉱物です。19世紀後半には人工的に合成が可能になり、ジュエリーとして販売されるようになったようです。その見た目がダイアモンドと非常に似ており、判別ができない店舗へダイアモンドとして買取させる置き込みなども多発しました。それ故に、モアッサナイトはダイアモンドの偽物というイメージをお持ちの方もいるようです。
顕微鏡で見た画像を掲載します。
天然石によくみられるインクルージョンはありません。合成石なので当たり前のことですが、透明度も高くとても綺麗ですね。毎度の事ですが、チリの映り込みがありますがお許しください。
また、ダイアモンドとは大きく異なる点として、虹色の反射が所々にみられます。
ダイアモンドを見慣れている人であれば、この時点で違和感をもつのではないでしょうか。個人的にはこのキラキラ感がとても好きです!
上の方で、ダイアモンドとモアッサナイトの判別ができないお店に持ち込んで、この人工石を高値で買取してもらう置き込みなどがあったと書きましたが、判別はとても簡単なのでその方法とこの人工石の特徴に焦点を置いてご紹介します。
ダイアモンド判別に関しては以前いくつかの道具を紹介しましたが、そちらを使ってモアッサナイトを検査してみます。こんな機会はめったにないので、若手社員のM君に色々体験して頂きました。
まずは熱伝導率です。見た目が似ているジルコンやキュービックジルコニアと比較するとダイアモンドは熱伝導率が高く、そこを比較する事でそれらの類似石との違いが明確に判明します。実際に、熱伝導率のみに頼った「ダイアモンドチェッカー」という機械などもあります。ただ、モアッサナイトもまた伝導率が高い鉱物の為、熱伝導率ではモアッサナイトとダイアモンドの区別は全くつきません。写真のようにダイアモンドと同等の熱伝導率を確認できます。(この機械の紹介は「こちら」)。それ故にダイアモンドチェッカーでの判別は不可能です。熱伝導率のみで判断するとモアッサナイトをダイアモンドと勘違いする可能性があります。
次に最新のダイアモンド判別機「GIA iD100」(機械の紹介は「こちら」を使ってみます。
一瞬で「REFER」(ダイアモンドじゃない)と判別されました。この機械があるお店などあまりないと思いますが、さすが最新式。機械でもしっかり判別できることができる事が分かったので少し嬉しいです。
そして最後ににモアッサナイトとダイアモンドを判別する手っ取り早く確実な方法をご紹介します。結果から言いますと「見ればすぐ分かります」。機械などいりません。
頑張って顕微鏡で分かりやすい写真を撮りました。
これはモアッサナイトのファセット(側面の面)からキューレット(下のとがった部分)を覗いた画像です。何やら万華鏡を覗いたように線が2重に見えますね。角度を変えて、更に拡大してみます。
キューレットに焦点を合わせて撮影していますが、一つしかないはずのものが2つにみえてしまいます。これがモアッサナイトの最大の特徴で、ダブリングという視覚現象です。今回は分かりやすくキューレットをのぞき込みましたが、石の手前側を通して石の奥側を見るとダブリングが確認できるので、キューレットがないテーパーカットやエメラルドカットのモアッサナイトの場合でも、同様の方法で看破が可能です。ダブリングは複屈折性の結晶に見られるものですが、ダイアモンドは単屈折性の鉱物でこのような現象は見れませんので、見ることが一番簡単な判別法なんですね。
書いていてふと思いついたのですが、他の方法として、凄く大きなものであれば、比重計を利用することでも判別が可能化もしれません。ダイアモンドの比重は3.52、モアッサナイトの比重は3.22と僅かではありますが違います。そこを比較すれば理論的には看破できるはず!
比重は何度か書いて事がありますが
[大気中での重さ]÷[(大気中での重さ)―(水中での重さ)]
で決まります。
1カラットのダイアモンドの大気中での重さは0.2グラムです。それを踏まえてダイアモンドの水中での重さをXとして計算してみます。(中学の勉強!)
3.52(ダイアの比重)=[0.2]÷[0.2―X]
[0.2―X]=[0.2]÷[3.52]
0.2―X=0.0568
X=0.1432
1カラットのダイアモンドの水中での重さは0.1432グラム!!
らしいです(もちろん知りませんでした)。
この時点で比重による看破は不可能だと分かります。0.1グラムなんて、エアコンの風でも、近くを人が通っても、数メーター先をトラックが通っても、僅かな地殻微動があっても変化する数値です。それを0.01グラム単位で計算するなんて、そんなの無理ムリむり…………。10カラットの石の比較でも看破できるか怪しいものです。当店の比重計では絶対にできませんね。
最後はモアッサナイトに関しての私見でございます。「人工石だから」とか「ダイアモンドの偽物」とかモアッサナイトに対する世間の評価は良くないものも多いようです。ただ、人工的に造られた鉱物とはいえ、見た目の美しさや光の反射はダイアモンドに引けを取らない、そして虹色に反射する特徴を考えるとむしろ美しさという点では勝っているかもしれません。
顕微鏡やルーペで10倍以上に拡大して石の判別をすることなど、日常ではありえるはずもなく、ダイアモンドよりも遥かに安価なモアッサナイトを、宝石やアクセサリーとして楽しむことは決して悪い事ではないように思います。本来の宝石の価値って、「見る事、身にまとう事、眺める事、そばにある事」を楽しむ事のようなものであり、買った時の金額や売った場合の値段などではありません。人工とか合成とか天然とか、肉眼で見て分かるものではありませんし。
さて、今回のセリ(市場)に出品されるこの子は、いったいいくらで競り落とされるのか?
値段によっては私も欲しいなぁ~と思ってしまいます。(埃が更についている 涙)
ちなみに当店では、モアッサナイトの買取依頼が来ても、お値段をお付けしませんのでご了承下さい。見れば分かるので、ダイアモンドとして取り扱うこともありません。大きなものであれば個人的に少し色は付けるかもしれませんけど。
長文でしたがご覧いただきありがとうございました。
以上