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ドライバーの適合性について

鴫原質店の弟さんです。

買取品の中にオメガ シーマスター レイルマスター トリロジー(220.10.38.20.01.002)がありました。付属品の揃ったオメガのレイルマスター レイルマスター発売60周年記念として世界限定3,557本が販売されたモデルのようです。マスタークロノメーター8806を搭載し、15,000ガウスの耐磁性能もあるとか。国内定価が¥803,000もするハイスペックモデルです。付属品もそろっているので、しっかりと整備してから店頭で販売したいと思います。

長々と商品説明をしてしまいましたが、今回の話は精密機械ドライバーのお話です。ドライバーについては今まで何度も取り上げてますが、改めてその必要性と重要性及び使い方について。今回のような品物をみる度に、今後も繰り返し書いていくつもりです。

今回譲って頂いたこのオメガ様、外見はベルトにスレ傷がいくつかある程度の美しいお品物です。ただとても残念な事にベルト調整跡がとても痛々しい状態。ベルトのネジ穴の拡大画像時計の購入先は有名デパートの時計コーナーなので、恐らくここまでの事はしないはず。ご自分で楽しみながらベルトの調整をしていたと推測します。自分の所有物を愛情を持って触る事はとてもいい事だと私は感じます。ただ、こういう傷が増える事でその品物への愛着が薄れることもあろうかと…‥。それ故、時計のベルトをご自分で調整する際の、ドライバーの選び方の参考にでもなればと考えております。

外装仕上げや内部点検を行う前に、余りコマを全て装着します。選定した3本の精密機械ドライバー取敢えずドライバー箱から3本のドライバー選んで取り出し、適合性を見ていきます。以前もしつこく書いてますが、ドライバーで重要なことは「幅」と「厚み」が合っているか。ドライバーを回す技術などいりません。ドライバーを選ぶことが大切です。なのでセットした時にドライバーの幅を、そして軽く回して厚みの確認を行います。

一番上の黄色いドライバーは【幅】は「使えない事は無い」という感じの適合性です。でも画像で確認できますが右側に隙間ができており、ここで【厚み】が合っていない事が分かり、この程度の隙間でも「全然ダメ」な部類に入ります。仮にこのままネジを回すと、ネジ山のの両方の当たっている部分が曲がります。もしこのドライバーを使うのであれば、ドライバーの厚みを適正になるまで削り、先端を厚くしてから使用すれば対応が可能です。

真ん中のドライバーは厚みは少し薄い程度ですが、そもそも幅が少し足りません。これで回すとネジの中央部分がえぐれてきます。なのでこれを使うよりは上のドライバーを調節して使用した方がずっといいと思います。

3本取り出したドライバーの最後の一本が良い感じで適合してます。適合したドライバーネジ山全体に負荷をかけられる状態にあるのでこれを使用する事にしました。ただ、注意が必要な点もあり、厚みが適合しているのはネジ穴上部のみになるので、「強く押し回し」をするとネジの角が崩れます。

ちょっと脱線しますが、新品の時計を購入した際、多くの方は気が付きませんがネジが接着剤で固定されている場合があり、高額品になればその傾向は強まります。ネジの接着剤取ったネジやネジ穴を見ると分かりますが、白い粉のようなものがその跡です。接着されている状態のネジは当然固めで、合わないドライバーで回した結果が今の惨状を招いたのかも。そういえば、質屋の道具でこの接着剤を取り扱ってなかった事に気が付きました!いつかどこかでご紹介させて頂きます。因みにこの手の接着剤は熱を加える事で柔らかくなります。

という事でドライバーが決まればただ回すだけ。取り付けたネジ赤丸で印をつけたところが私が付けた部分です。ちょこっと傷ついてますが、黄色で印をつけた私が全く触っていない部分にもネジの変形があるので、一番最初からついていたものという事にします(実際は不明…‥汗)。上部の適合性を合わせても、上から高圧力をかけるとこんな感じの変形に繋がる事があり、これが上記で触れたことです。(繰り返しますが、私が触ってないところも変形してます!)

という事で今回はドライバーの選び方について画像で説明してきました。ただ誤解があると嫌なので正直に申し上げますが、金属と金属がぶつかるので完全無傷で調整するのはとても難しい事です。手持ちのドライバーでネジ山の上の部分に適合するものを選び、そして適合性を更に調整し、できるだけ傷付けないように努力することが大切、という事をお伝えしたいだけです。調整できるのはあくまでもネジ山上部との適合性なので、若干の妥協と諦めも時には必要ですが、ドライバーの適合性を可能な限り最適にすることが重要です。私が触るお品物は「会社の商品」や「お客様の物」なので、この細やかな調整に手を抜くことはせず、常にルーペで確認しながら作業をしております。だって、傷つけたら大変ですし、それ以前にそれが仕事なので!。

(最後に)
書こうか迷いましたが、私の場合、自分のものはこんなに細かい事は気にしてません。ベルトの調整など数年に1度するかしないかですし、ネジを新品に交換しても恐らく大した金額はかからないので、自分のものを調節する時には適当にやります。外装仕上げもたまに自分でやりますが、見た目が光っていればいい程度で終わらせ、細かな傷など気にしません。今回の件についても、自分の持ち物をどのように扱おうなど個人の自由なので、決してベルト調整で傷がついている点を非難はしてません。むしろ上記してますが、自分で調整してみようと思う方が楽しいのではないかな。気分に合わせてベルトそのものを交換するとかもありですし、自分の時計の電池を交換できるとか、そういう事ってとても素敵なことだと思います。仕事としてやっているドライバー選び方が、少しでも誰かのお役に立てればいいな~と思いました。自分の大切な時計に傷がつくのは、誰だって嫌ですからね。

文章が長すぎてすみません。
本日は以上でございます。


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