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1968年製造 アンティークグランドセイコーを見て感じた事

鴫原質店の弟さんです。

今回はお店で買取させて頂いた品物でいい感じの時計があったのでご紹介させて頂きます。グランドセイコーのアンティーク時計それはグランドセイコーの「4520-8000」(茶色ベルト)と「6145-8000」(青色ベルト)の2点。セイコーの型番に関して簡単に触れると、「ハイフン」の前が搭載ムーブメントを表しており、キャリバー「6145」は1968年に造られ国内で初搭載された自動巻き10振動ムーブメント。そしてキャリバー「4520」はそれに続いて発売された10振動の手巻きムーブメントです。

「10振動って何よ?」と思う方もいると思うので補足すると、時計の心臓部であるテンプ(振り子のような部品)が1秒間に5往復(10振動)する事を意味し、1時間になんと36,000回も振動する、とても忙しそうで働き者の構造をしている心臓(ムーブメント)の事です。現在の機械式ムーブメントは28,800(8振動)が主流で、それを超えるものはハイビートと一般的に呼ばれています。良い面としては「安定的に高い精度を出し易い」、悪い面としては「部品の消耗や油切れが早い」というところかな。時計に愛を感じる方の中には、全力で動き続けるハイビートの音が好きな方も多いのではないでしょうか。

それでは「4520-8000」の方から見てみます。4520-8000の正面画像GS文字の下に刻まれた「HIーBEAT」の文字が特徴的かな。私よりも年寄りな時計に全く見えず、グランドセイコーのデザインがどれだけ先進的だったか思い知らされます。

裏蓋はこんな感じ。4520-8000の裏面画像シリアル番号の最初の一文字は西暦の一桁を表しており「〇〇〇8年」に造られた事を意味し、ムーブメントの製造時期から推測すると1968年に製造された時計だと分かります。そしてシリアルのその次の文字は製造月を表しており、9月に製造された子だと判明します。つまりこの子は今年の8月で54歳になるんですね。ハピバ~(笑)。

そんなにお年を召されていても今時の若者達と見た目はあまり変わりません。4520-8000の詳細部時計の裏の金色GSメダルや「SEIKO」ロゴが大きく違う点かな。この部分を見れば「おっちゃんか!?」って判明する分かり易い特徴かもしれません。

折角なので裏蓋を開けてムーブメントを拝見させて頂きましょう。4520のムーブメント搭載されている25石ムーブメント「Cal.4520」は、当時のクロノメーター規格よりも、精度を更に追及して製造されたという話も有名で、それは「グランドセイコー規格」と呼ばれているようです。機械式時計の精度はこの時すでに完成に域にあったのかもしれません。ムーブメントには個体ナンバーが記されていて、当時の最高級品の一つであったことが想像できますね。なんか夢があるお話です。

ムーブメントのあちこちに傷があるのが少し痛々しいけど、これも今まで頑張ってきた証かな。4520のムーブメント詳細部54年の間に何度(そしてまた何人に)この姿を見せたのか分かりませんが、ネジを外せばネジの頭が歪みますし、ピンセットで摘まめばその部分に傷がついていきます。オーバーホールは時計にとって大切なメンテナンスである一方で、こういう小さな傷が増えてしまう可能性が必ずあるという事を、多くの方は知る由もないのが現実です。傷など付けずに組み終えるのは理想ですが、ドライバーが滑るだけで傷は刻んでしまうもので、無傷で終わるって本当に難しい事だと思います。そして、そんな傷の一つ一つもこの時計が生きてきた証だと感じてしまいます。

最後にウォッチエキスパート2君に心音を計測して頂きます。4520の心音「日差」や「振り角」などを見ると調子はいまいちで、要するに整備が必要な状態。左上の「+20」は1日20秒進む事を意味しますが、ハイビートのムーブメントなら±5秒以内の調整も可能だし、そもそもにして「振り角」が少なく、ま~油切れやらゼンマイが下手ってるなどが考えられる状態ですかね。時計内部の状態を見る為に「カチカチカチ」という音をスピーカーで聞いていましたが、私の背後で仕事をしていた社長さまが「それハイビートなの?」と反応しました。一心不乱に動き続けるハイビートの心音は本当に快適で特徴的です。

次は「6145-8000」をご紹介。6145-8000の紹介がぞう前期モデルと後期モデルがあり、GSの文字の下に「HI-BEAT」と書かれたこの子は後期モデル。その部分に「GRAND SEIKO」と表記されているのが前期モデルになり、前期モデルの製造期間は僅か数カ月で個体数はとても少ないようです。シリアルから読み取れる情報として、この子は1969年8月生まれの53歳という事。やっぱりもうすぐハピバ~ですね。

国内で最初に搭載された自動巻き10振動ムーブメント「6145」を拝見しようとしたところ・・・。6145-8000の紹介がぞう完全固着して裏蓋が回りませんでした。アンティークあるあるってやつです。このような場合、専用薬液をピチピチと垂らしながら地道に開ける努力をする他ありませんが、当店にそのような設備が無いので、今回は諦める事にしました。本当に残念です(涙)。

この腕時計達が製造されていたまさにその1969年、セイコーは世界初のクオーツ(電池)式腕時計を発売しました。電池式時計の小型化に成功し、腕時計の世界常識を塗り替えてしまいます。それによりクオーツ機構は世界中に広がり、誰もが手に入れる事ができる手ごろな価格で、正確な時を刻む腕時計が手に入れられるようになっていきます。時計の歴史の中で「クオーツショック」と呼ばれる程大きな出来事であり、それにより機械式時計のメーカーに大きな打撃を与えることになっていきます。もちろんその中にはグランドセイコーも含まれておりました。※グランドセイコーのホームページ(こちら)から一部引用しており、ストーリー3の部分で書いてある出来事です。

このような歴史などと見合わせても、今回紹介した2つの機械時計は大きな転換期に製造された貴重な時計であり、現在の時計技術は半世紀も前に確立されていたものだと分かります。現代における腕時計の大型化や超高級化と、機械時計の衰退と復興の物語は、腕時計に求めるニーズの変化による影響のような気もしており、とても興味深い事に思えます。正確に「時」を刻む為に四苦八苦しながら発達してきた技術が、クォーツ時計の登場により存在意義そのものを失い、機械式腕時計に新たな価値を与える必要があったのかもしれません。そもそもにして、腕時計って何の為に使うのだろう・・・、そんなことを考えさせられてしまいます。

本日は以上でございます。

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