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クレサンベール

鴫原質店の弟さんです。
本日は前々回の続きで、何気に見つけた綺麗な石について書いていきます。完全に私見である事、そして感じたことを書いており、何がいいとか悪いとか、そういう意味すら全くないことをご理解下さい。

今回の題材はこちら。綺麗な石のついた指輪綺麗な石のついた指輪プラチナの台にセッティングされ、石の回りには天然のダイアモンドで装飾されています。デザイン的には凄く前のものです。違う角度からも見てみましょう。綺麗な石輪綺麗な石透明度や照りや内包物など、すべての要素で欠点が見当たらず、恐ろしく綺麗すぎて見入ってしまいます。ある事さえ知らなければ、とんでもないものが目の前にあるのではないか?と高揚を感じずにはいられないですね。

では、そのある事とは?指輪の刻印されたマークで判明します。石輪の刻印石輪の刻印アレキサンドライト2.30カラット、ダイアモンド0.56カラット、そしてプラチナ900の土台、そして赤丸で囲った独特のマーク。これは京セラのクレサンベールである事を意味しています。

クレサンベールの説明はメーカーホームページからフル抜粋します。
(以下京セラホームページから)
クレサンベールは傷や不純物が混ざり合わない理想的な宝石。天然ではなかなか出会うことの出来ない、最高級品質の宝石を再現。宝石本来の美しい色彩の輝きが楽しめます。

そして成分表がこちら(京セラHPから)。クレサンベールの成分表クレサンベールの成分表分かる事は天然石と全くと言っていいほど成分と性質が一緒であること。

天然の宝石は地球の地熱(例えばマグマ)などの影響を受け、何万年もしくは何十万年もかけてゆっくりと形成されます。当然、その生成過程において石の中に不純物が混ざることも当たり前で、形成される長い年月の環境の変化により、色味や照りなどの個体差がでてきます。それ故、完璧な天然石というのは、いくつもの特殊な環境が奇跡的に重なりできた偶然の産物で、とんでもない希少性があります。

クレサンベールは、良質な宝石の原石を粉砕し、その中の不純物を取り除き、1,410℃以上に加熱して地球のマグマと同じ状態を再現し、良質な宝石が生まれる環境を人工的に再現し、長時間に渡る時間をかけて結晶を成長させていくことで製造されます。

簡単に言うと天然の宝石を叩き壊して溶かして、不純物を完全に取り除いて、宝石を再結晶させるということ。天然ではその存在が奇跡に近いものを人工的に再現したわけです。成分や構造が全く同じという事もうなずけます。

それではアレキサンドライトの最大の特徴である鮮やかな変色効果を見てみます。アレキサンドライトの変色性アレキサンドライトの変色性一応洗ったのですが、石の裏側が汚かった(涙)。いつもすみません。画像が鮮明過ぎるから悪いんですよ……きっと。やり直す気はないのでそのまま進めます。せっかくだから色んな角度から光を当ててみます。アレキサンドライトの変色性アレキサンドライトの変色性神秘的!!。アレキサンドライトは太陽光の下でとても深い青緑色の表情を見せますが、ランプなどの赤色系ライトで照らされると赤紫色へとその姿をかえます。石に内包されているクロム(鉻)(原子番号24)が影響するそうです。

妄想大好き人間の私は、焚火などしながらこの石を見たいとふと思いつきました!きっと最高の気分が味わえるかも。炎の揺れに応じて宝石が煌めく、どんな姿が見れるんだろう?想像するだけで口元からよだれが‥‥。

クレサンベールをググると様々な情報を得られます。その一つに京セラがこの鉱物を造ろうとしたきっかけが書いてありました。発掘に限界がある天然石の質の低下、高品質の物の価格高騰、そして低品質のものに人工的な処理が加えられることが一般的になり、そうしたものが本当に人々の心に豊かさをもたらすのかに疑問を覚えたから(らしい)です。本来の宝石が持つ最高に美しい宝石の色を身につける喜びを提供したい、そんな発想が開発の根源にあります。なんだか共感する部分がありますね。

とても輝かしく魅惑的で神秘的なこのクレサンベールアレキサンドライトですが、今も昔も質屋や宝石屋、そして中古市場全体において金銭的な価値は殆どありません。理由は様々あると思いますが、一つだけはあからさまに明確です。

そもそも宝石が大好きな方々は、希少価値に莫大な金銭を払う事を惜しみません。希少性そのものがまさに財産なのです。宝石といってもピンキリなので誤解がないように書きますと、天然石というだけで希少価値はある訳でもなく、そして天然石でも人工的処理(エンハンスメントやトリートメント)が行われているものは見た目の割に価値がなく、ましてや人工的に造り出すことが可能な鉱物に興味を示しません。そのような価値観で言えば、美しさ云々はもちろん必要なのですが、それよりも自然環境で奇跡的に産まれた天然石を装飾したものを宝石と呼ぶのかもしれません。

このアレキサンドライトクレサンベールは、私ごときが見て、天然石か再結晶石の判断はできません。そもそも視認検査でできることがあるのかも分かりません。でも画像を撮っていて思ってましたが私は見ていて楽しいです。クレサンベールを造ろうとした発想はまさにそこにあるのだと思います。宝石に対する価値観や意味合いそのものが全く異なるので、宝石という定義そのものの再考が必要なのかも。

中古市場で再結晶宝石の扱いは、恐らく今後も今とは変わらないのかもしれません。しかしながら、お客のニーズに合わせて品物も値段も変化していくのが商売の基本です。ただ、良さ(悪さも)を理解し、中古でもいいから買いたいという人がもし増えれば、従来の慣習などを捨てて再結晶宝石を取り扱う人たちもでてくるかもしれませんね。人々が創る価値観に敏感でありたいと思います。

本日は以上です。次の更新では、書いていて色々と思う事もあり、世界に誇る日本の宝飾メーカーであるミキモトについて書いてみます。長文をご覧いただきましてありがとうございました。

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